ADHD(注意欠如多動症)

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ADHD(注意欠如多動症)について

ADHDは、不注意や多動・衝動性を特徴とする発達障害です。集中することだけでなく、時間を管理する、行動を切り替える、衝動を抑えるといった場面にも難しさが現れ、仕事や日常生活に支障が出ることがあります。治療では、薬物療法と生活・環境面の対策を組み合わせ、繰り返している困りごとを減らしていきます。

精神科の外来では、「気をつけているのに同じ失敗をする」「職場が変わっても仕事が続かない」といった相談から、ADHDの特徴を振り返ることがあります。うつや不安の治療を進める中で、子どものころからの不注意や、段取りの苦手さが見えてくる場合もあります。

仕事や人間関係でのつまずきを繰り返す、借金などで生活が成り立たない、うつ状態が重なっているときは、受診を考えたい状態です。苦手をすべてなくそうとするのではなく、必要な改善と受け入れを並行し、自分に合う環境や生活の続け方を考えます。

主筆:春日雄一郎

症状の変化に気づく

こんな症状に注意

以下の症状は、自分の状態を振り返る手がかりになります。ADHDの診断では、症状の有無だけでなく、子どものころからの経過、症状が現れる場面、生活への影響を合わせて確認します。

① ミスや忘れ物が多い

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気をつけているのに、細かいミスや忘れ物を繰り返します。書類の数字を取り違える、メールの添付を忘れる、出かける直前に鍵や財布が見つからない、といった形で表れます。

「次こそ注意しよう」と反省しても、確認の途中で別のことに気を取られたり、頼まれた用事が頭から抜けたりすることがあります。本人のやる気だけでなく、注意を保つことや、必要なことを覚えて行動する難しさも考えます。

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② 遅刻を繰り返す

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時間を守るつもりでいても、準備や行動の切り替えが間に合わず、遅刻を繰り返します。「準備は10分で終わる」と考えていたのに時間がかかったり、出発前に別の作業を始めてしまったりします。

約束を軽く考えているとは限りません。必要な時間を見積もることや、今していることを切り上げることの難しさが、遅刻につながる場合があります。

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③ じっとしていられない

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座っている必要がある場面でも、身体や気持ちが落ち着きません。会議中に手足を動かし続ける、何度も席を立つ、待ち時間にそわそわするといった様子がみられます。

大人では、目立って動き回るとは限りません。「何かをしていないと落ち着かない」「内側から急かされる感じがする」「頭が多動」という形で表れることもあります。

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④ 急に怒ってしまう

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不満やいら立ちが生じたとき、考えるより先に強い言葉や態度が出てしまいます。話を遮られたときや、予定どおりに物事が進まないときに声を荒らげ、落ち着いてから後悔することがあります。

ADHDに伴う衝動性や感情調節の難しさが関係する場合があります。一見ADHDとは結びつきにくい症状ですが、人間関係や仕事などに大きく影響するため、注意と対策が必要です。

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必要なところから、少しずつ

ADHD(注意欠如多動症)を詳しく知る

1.ADHDとは

ADHDは、注意と行動の調整の難しさ。不注意、多動・衝動性、子どもの頃からの経過。生活への影響を、複数の場面から確認します。図を拡大する

1-① 不注意と多動・衝動性を特徴とする発達障害

ADHDは、注意や行動の調整に難しさがある発達障害です。不注意と多動・衝動性が中心となり、学業、仕事、家庭生活、人間関係などに影響します。

忘れ物や気の散りやすさは誰にでも起こり得ますが、ADHDではその程度や影響が異なります。診断では、その頻度や程度が年齢などに比べて目立ち、複数の場面で生活への支障が続いているかを確認します。

1-② 不注意が目立つ場合、多動・衝動性が目立つ場合

ADHDの症状は、すべてが同じように現れるわけではありません。不注意が目立つ場合、多動・衝動性が目立つ場合、両方がみられる場合があります。

外からは静かに見えても、話を聞き漏らす、用事を忘れる、作業が終わらないといった困りごとを抱えていることがあります。「落ち着いて座っていられるからADHDではない」とは言い切れません。

1-③ 子どものころからの特徴と、大人になってからの困りごと

ADHDの診断では、子どものころからの特徴を確認します。ただし、当時から診断を受けていたり、大きな問題が起きていたりする必要はありません。

成績には問題がなくても、忘れ物が多い、宿題を出し忘れる、身支度に毎日声かけが必要だったという経過が手がかりになります。大人になって責任や作業量が増え、それまで目立たなかった難しさが表面化することがあります。

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2.ADHDの主な症状

主な症状は、3つの側面から。不注意、多動、衝動性。症状の現れ方や強さには、個人差があります。図を拡大する

2-① 不注意―気が散る、聞き漏らす、必要なことが抜け落ちる

不注意は、必要なことに注意を向け、保ち続ける難しさとして表れます。説明を聞いている途中で別のことを考える、周囲の音に気を取られる、文章を読んでも内容が頭に残らない、といった状態です。

相手の話を聞く気がないわけではなくても、聞き漏らしが起こります。診察では「集中できない」という言葉だけでなく、どの作業のどの段階で抜けが生じるかを確認します。

2-② 多動―動き続ける、話し続ける、落ち着いて過ごしにくい

多動は、場面に合わせて身体の動きや活動量を調整しにくい状態です。手足を動かす、席を立つ、話し続けるなどのほか、大人では内面的な落ち着かなさが目立つこともあります。

休憩中も次にすることを探したり、何も予定がない時間を持て余したりする場合があります。活動的な性格との主な違いは、その場で必要な過ごし方ができず、本人や周囲が困っているかという点です。

2-③ 衝動性―待てない、話に割り込む、考える前に行動する

衝動性は、思いついたことを行動に移す前に、いったん止まることの難しさです。相手の話が終わる前に答える、順番を待てない、十分に確認せず申し込みや買い物を進める、といった形で表れます。

行動した後になって、問題に気づくこともあります。「結果を知らなかった」のか、「分かっていたが、その場では止められなかった」のかを分けると、必要な対策を考えやすくなります。

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3.ADHDの見逃されやすい症状

見逃されやすい、日常の難しさ。過集中、時間管理、感情調節、実行機能。「始める・切り替える」場面にも注目。図を拡大する

ADHDでは、不注意や多動・衝動性に加え、次のような困難が目立つ場合もあります。

3-① 過集中―夢中になると、ほかのことが見えなくなる

過集中は、特定のことに深く没頭し、周囲や時間の経過に気づきにくくなる状態です。興味のある作業やゲームを続け、食事や就寝、ほかの予定を後回しにしてしまうことがあります。

うまく活用できれば、仕事などの達成につながります。ただし、ほかの大事なことを忘れたり、過集中の後に強く疲弊し、しばらく活動しにくくなったりする点には注意が必要です。

3-② 時間管理の苦手さ―時間を見積もれず、切り上げられない

時間管理の難しさは、時計を見ていないことだけが原因ではありません。作業にかかる時間を短く見積もる、出発までに必要な手順が抜ける、目の前の作業を終えられないなど、いくつかの難しさが重なります。

主に不注意の特性が影響しますが、ADHDでは、それとは独立した時間管理の苦手さもあるとされています。遅刻や先送りの主な原因となり、社会生活に大きく影響します。

3-③ 感情調節の困難―気持ちが急に強まり、落ち着きにくい

ADHDでは、いら立ちや失望が急に強まり、言葉や態度を調整しにくいことがあります。小さな予定変更で強く腹が立つ、注意された直後に深く落ち込むなど、出来事への反応が大きくなる場合です。

衝動性が主な背景とされますが、ADHDでは感情調節そのものに困難が生じることもあるとされています。特に急に怒ることは対人関係への影響が大きく、トラブルや孤立の原因にもなるため、注意が必要です。

3-④ 実行機能障害―始める、順序立てる、切り替えることが難しい

実行機能は、目標に向けて行動を組み立て、進み具合を調整する働きです。「何をすればよいかは分かるのに始められない」「途中で別のことを始め、どれも終わらない」といった困難に関わります。

ADHDでは、この実行機能障害に不注意が重なり、影響が強く出ます。部屋の片付けなどが非常に苦手になり、大事なものをなくすこともあって、生活に大きな支障が出る場合があります。

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4.ADHDでよくある困りごと―ミス・忘れ物・遅刻

ミス・忘れ物・遅れを、具体的に整理。確認の抜け、忘れ物・用事の抜け、遅刻・締め切り遅れ、片付け・同時進行。どの場面で、何が抜けるかを振り返る。図を拡大する

4-① ミスが多発する―確認しているつもりでも抜けが残る

ADHDでは、ケアレスミスが非常に目立ちます。仕事上のミスは、注意が抜けたときだけでなく、急いでいるときなどにも起こります。特に、複数のことを同時に行う「マルチタスク」で出やすくなります。

「もっと確認する」という対策だけでは、対応が難しいことも多くあります。ミスが出やすい工程を絞り、確認項目を決める、中断した位置を残すなど、具体的な方法を考えます。

4-② 忘れ物や用事の抜けが続く―物だけでなく、約束や手続きも忘れる

ADHDでは、忘れ物も目立ちます。鍵や財布などの持ち物だけでなく、メールへの返信、振り込み、書類の提出、予約の日時など、「後でするつもりだったこと」が抜け落ちる場合もあります。

診察では、「物の置き場所を忘れる」のか、「用事そのものを思い出せない」のかを分けます。前者なら置き場所の固定、後者ならその場での予定登録や通知など、対策の方向が変わります。

4-③ 遅刻や締め切り遅れを繰り返す―最後に頑張っても間に合わない

締め切りが近づくまで着手できず、直前にまとめて取り組むことがあります。間に合う経験が続いていると同じ進め方になりやすく、作業量が増えたときに対応しきれなくなります。

学生のころまでは、締め切り前の過集中で乗り切れる場合も少なくありません。しかし、仕事では同じ方法で対応することが難しくなり、先送りや遅れなどの問題が目立ってきます。

4-④ 片付けや複数の作業が進まない―何から手をつけるか決められない

やることが多いと、優先順位を決められず、どの作業も進まなくなる場合があります。片付け、洗濯、支払いなどを同時に考え、負担の大きさから何も始められなくなることもあります。

最近は、仕事で「マルチタスク」を求められることが増えています。ADHDでは、複数の仕事を管理しながら同時並行で進めることが難しく、困難が表面化する場合があります。

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5.ADHDで注意が必要な問題―人間関係・衝動買い・依存

人間関係や、お金への影響にも注意。連絡・約束の行き違い、怒りのコントロール、衝動買い、飲酒などへの依存。繰り返す行動と、生活への影響を相談。図を拡大する

5-① 友人関係が続きにくい―連絡や約束の行き違いが重なる

ADHDでは、人間関係を作るのが得意なことも多い一方、その後の関係を保つことには、しばしば難しさがあります。返信を忘れる、約束に遅れる、相手の話に割り込むなどが重なり、「大事にされていない」と受け取られてしまう場合があります。

本人にとっては、一つひとつは意図しない失敗でも、相手には積み重なった負担があります。診察では、関係が途切れる前に何が起きていたかを振り返り、繰り返しやすい行動から対策を考えます。

5-② 怒りを抑えられない―その場の反応で、大切な関係を傷つける

怒りが高まった瞬間に、強い言葉やメッセージを送ってしまうことがあります。本人は短時間で落ち着いても、言われた側には傷つきや警戒が残り、関係が戻りにくくなる場合があります。

衝動性や感情のコントロールの問題は、特に人間関係に大きく影響します。ADHDと診断された場合には、怒りのコントロールへの対策に重点を置くことがあります。

5-③ 衝動買いを繰り返す―買うときの気持ちが、後の支払いより優先される

欲しいと感じたときに、使う予定や支払いの見通しを十分に考えないまま、その場で購入を決めてしまうことがあります。高額な物を買う場合もあり、繰り返すと出費が多額になります。

衝動買いによる借金や経済的な破綻は、ADHDでしばしば大きな問題になります。金銭面の重圧は人間関係や精神状態にも影響するため、衝動買いは特に注意が必要な行動の一つです。

5-④ 飲酒のコントロールが難しい―アルコール依存にも注意する

ADHDでは、アルコールなどへの依存が併存することがあります。落ち着かなさや嫌な気分を和らげようと飲み始め、予定より量が増える、翌日の生活に影響しても飲酒が続く、といった状態には注意が必要です。

飲酒に限らず、ADHDでは短期的な報酬への反応から、依存に陥りやすいことに注意が必要です。ギャンブルやSNS、特定の人間関係などへの依存も、同様に注意を要します。

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6.大人になってADHDに気づくのはなぜか

大人になって、困りごとが見えることも。周囲の支えが減る、管理することが増える、無理や疲れが重なる。昔からの特徴と、最近の変化を分けます。図を拡大する

6-① 子どものころは、家族や学校の仕組みに支えられていた

子どものころは、周囲の支えによって困りごとが目立たなかった場合があります。家族が持ち物を確認する、決まった時間割に沿って動く、提出前に先生が声をかけるといった仕組みです。

進学や一人暮らしで支えが減ると、自分だけで予定や手続きを管理する難しさが表面化します。診察では「以前はできていた」という結果だけでなく、そのとき誰が、何を支えていたかも伺います。

6-② 仕事・家事・育児で、自分で管理することが増えた

大人になると、複数の予定や役割を同時に管理する場面が増えます。一つの仕事には集中できても、電話対応、締め切り、会議の準備が重なると、抜けや遅れが目立つことがあります。

仕事に加えて家事や育児を担うようになり、それまでのやり方が通用しなくなる場合もあります。症状だけが急に強くなったのではなく、求められることが増えた影響も考えます。

6-③ 周囲に合わせ続けることで、疲れや無理が積み重なっていた

目立つ失敗が少なくても、それを防ぐために多くの時間や労力を使っていることがあります。忘れないように何度も確認し、仕事を家に持ち帰り、休日も翌週の準備に追われるような状態です。

診察では、仕事に行けているかだけでなく、生活全体が保てているかを見ます。「できているから問題ない」とせず、その状態を続けるための負担も確かめます。

6-④ 「昔からの苦手さ」と「最近できなくなったこと」を分ける

最近になって集中力や段取りが大きく低下した場合は、ADHD以外の原因も確認します。うつ状態、強い不安、睡眠不足などによって、以前はできていたことが難しくなる場合があるためです。

もともとのADHDに、こうした不調が重なっていることもあります。子どものころからの傾向と、最近の変化を分けることで、今どこから治療すべきかを考えやすくなります。

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7.ADHDと関連する疾患・似た症状を示す疾患

似た症状でも、背景と経過を確認。ASD、双極性障害、境界性パーソナリティ障害、うつ・不安・睡眠の問題。一つの症状だけで、病名を決めません。図を拡大する

7-① ASD(自閉スペクトラム症)―共通する困りごとと、併存の可能性

ASDでは、対人コミュニケーションの特徴や、こだわり、感覚の偏りなどがみられます。ADHDとは異なる発達障害ですが、両方の特徴がある場合もあります。

同じ「人間関係がうまくいかない」でも、会話への割り込みが主な理由なのか、相手の意図を読み取りにくいのかで、必要な支援は変わります。診察では、表面に出ている困りごとだけでなく、その背景を整理します。

7-② 双極性障害―気分・睡眠・活動性の変化と、その続き方を見る

双極性障害でも、多弁、落ち着かなさ、衝動的な買い物、怒りっぽさなどが現れることがあります。見極めでは、普段とは異なる気分や活動性の高まりが一定の期間続き、睡眠にも変化があるかを確認します。

ADHDでは子どものころからの傾向を重視しますが、両方が併存する場合もあります。双極性障害でも、混合状態などでは短期間に気分の浮き沈みが出ることがあるため、さまざまな角度から慎重に判断します。

7-③ 境界性パーソナリティ障害―衝動性や怒りの背景を考える

境界性パーソナリティ障害でも、感情の揺れや衝動性、対人関係での困難がみられます。見捨てられることへの強い不安、自分自身の捉え方や関係性の不安定さなども含めて評価します。

近年、境界性パーソナリティ障害と診断されていた方が、実はADHDだったという臨床例も少なからず経験します。ただし、両者が合併することもあるため、慎重に見極めます。

7-④ うつ病・不安・睡眠の問題―ADHDに似た状態になることも

うつ病では、集中力や判断力が低下し、忘れ物や作業の遅れが増える場合があります。不安で考え事が頭を占めているときや、睡眠が不足しているときも、注意を保ちにくくなります。

診察では、こうした状態が始まる前にも同じ困りごとがあったかを確認します。ADHDにうつ病などが「二次障害」として合併することもあるため、その点も慎重に判断します。

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8.ADHDの原因と、症状に関わる脳の働き

注意や行動を支える、さまざまな働き。注意の調整、反応を抑える、行動を組み立てる、刺激・報酬への反応、覚えながら使う。原因は一つではなく、現れ方も異なります。図を拡大する

ADHDには、遺伝的な要因や脳の発達・働きが関わると考えられています。ただし、原因を一つに絞ることはできず、以下の働きが全員で同じように弱いわけでもありません。

8-① 遺伝的な要因と、脳の発達・働きとの関係

ADHDの生じやすさには、遺伝的な要因が関わるとされています。ただし、一つの遺伝子で決まるものではなく、家族に特徴があれば必ず同じ状態になるわけではありません。

脳の発達についても、近年研究が進んでいます。主に衝動や実行機能をつかさどる「前頭前野」の障害が影響するといわれますが、単一のモデルでは説明できない面もあり、今後の研究の進展が望まれます。

8-② 注意の調整―必要なことに向ける、保つ、切り替える

注意には、一つのことに集中するだけでなく、必要な情報を選び、集中を保ち、別のことへ切り替える働きがあります。ADHDでは、こうした調整の難しさが症状に関わります。

例えば、興味のある作業には深く集中できても、単調な確認作業では注意が続かないことがあります。前頭前野を中心とした「注意や刺激を制御する脳のネットワーク」が働きにくいことが、背景の一つとされています。

8-③ 抑制機能―反応や行動にブレーキをかける

衝動的な反応をいったん抑える働きには、前頭前野を含む脳のネットワークが関わります。ADHDでは、この抑制の難しさが、多動や衝動的な行動を説明する仕組みの一つと考えられています。

相手の話を最後まで待つ、購入ボタンを押す前に考える、怒った直後の発言を控えるといった場面です。「してはいけない」と知っていても、「その瞬間に止める」ことができない場合があります。

8-④ 実行機能―目標に向けて、行動を組み立てる

実行機能は、計画、優先順位、行動の開始や切り替え、進み具合の確認などを支えます。「遂行機能」と呼ばれることもあり、一つの能力ではなく、複数の働きをまとめた言葉です。

例えば、料理では献立を決め、材料をそろえ、加熱の順番を考える必要があります。一つひとつの作業はできても、全体を組み立てるところで負担が大きくなる場合があります。

8-⑤ 報酬系―目の前の刺激や楽しさに引かれやすい

報酬系は、楽しさや達成感を手がかりに、行動への意欲を支える仕組みです。ADHDでは報酬の受け止め方や動機づけとの関連が研究されており、先の利益より目の前の刺激を優先しやすいことを説明する視点になります。

例えば、来月のために書類を整えるより、すぐ反応が返ってくる動画やゲームへ注意が向きます。短期的な刺激への反応の強さは、状況などによる気分の浮き沈みの激しさにもつながります。

8-⑥ ワーキングメモリ―必要な情報を覚えながら使う

ワーキングメモリは、必要な情報を一時的に保ち、それを使いながら作業する働きです。実行機能の一部でもあり、長い説明を聞きながら手順を整理する、複数の用事を覚えて動くといった場面で使います。

途中で別の情報が入ると、先ほど頼まれたことが抜けてしまう場合があります。対策として、メモや手順表を使い、情報を頭の中だけに保つ負担を減らす方法を考えます。

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9.ADHDへの対策がない場合のリスク

困りごとを、抱え続けないために。仕事・学業、対人関係、生活・経済面、自信・こころの不調。影響が広がる前に、対策や支援を考えます。図を拡大する

ADHDがあっても、必ず生活が悪化するわけではありません。ただし、すでに支障が出ている状態で対策や支援がないと、仕事、人間関係、経済面へ影響が広がる場合があります。

9-① 仕事や学業の継続が難しくなる

ミスや遅刻、締め切りの遅れが続くと、能力があっても評価を保ちにくくなります。叱責への不安が強まり、出勤や通学そのものが難しくなる場合もあります。

診察では、転職や進学を繰り返す背景に着目します。どの環境でも同じ問題が起きるのか、特定の業務や条件で困りやすいのかを確認し、環境調整と特性の治療の優先順位を検討します。

9-② 信頼が損なわれ、対人関係の破綻につながる

約束の行き違いや衝動的な発言が続くと、周囲との信頼関係に影響します。謝る気持ちがあっても同じことが繰り返されると、相手が距離を取る場合があります。

特に、衝動的な怒りと金銭面のトラブルは、ADHDでの人間関係に大きく影響します。特性に伴う問題の中でも、影響の強い部分を見極め、対策を検討します。

9-③ 生活や経済面の困難が広がる

支払い、契約更新、郵便物の確認などが滞ると、小さな抜けが生活上の大きな問題につながります。衝動買いと支払い管理の難しさが重なれば、借金や生活費の不足に発展する場合もあります。

影響が強い場合は、本人の記憶や意志だけに任せない支援が必要になることがあります。特に金銭面の問題では、社会福祉協議会に相談するなど、生活の破綻を防ぐための現実的な方法を検討する場合があります。

9-④ 自信を失い、二次障害を合併する

失敗や叱責が重なると、「自分は何をしても駄目だ」と考えるようになる場合があります。行動を起こす前から失敗を恐れ、新しいことや人付き合いを避けるようになることもあります。

ストレスが重なると、うつ病などの「二次障害」を合併することがあります。大人のADHDの診断のきっかけは、不適応や消耗によるうつ状態での受診が多くを占めます。

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10.ADHDで注意が必要な二次障害

二次障害は、特性だけではない不調。うつ・適応障害、対人場面への強い不安、対人不信・反発。長く続く無理や、最近の変化にも目を向ける。図を拡大する

10-① 二次障害とは―困りごととストレスが積み重なったとき

ADHDでは、特性による困難が続くだけでなく、二次的に精神的な不調を合併することがあり、これを「二次障害」と呼びます。一度合併すると対策が難しくなるため、できるだけ予防することが望まれます。

不適応によるストレスから生じる場合も多くあります。トラブルを防ぐため、周囲に過度に合わせる「擬態」を続け、適応する代わりに強く疲弊して二次障害に至ることもあります。

10-② うつ病・適応障害―失敗や自責が続き、意欲や自信を失う

ADHDにうつ病や適応障害が重なると、落ち込みや楽しさの低下に加え、睡眠、食欲、集中力にも変化が現れます。「以前から忘れ物はあったが、今は身支度や連絡もできない」という状態なら、もともとの特徴だけでは説明できない可能性があります。

大人のADHDでは、仕事での不適応や過剰適応から、うつ病・適応障害を合併することがあります。うつ病が長引くことや適応障害を繰り返すことをきっかけに、ADHDの発見・診断に至る場合も多くあります。

10-③ 社会不安障害―人から注意されることや、評価されることが怖くなる

ADHDでは、不注意などによる失敗を繰り返し指摘される場合があります。その結果、自信を失うだけでなく、人前での行動や評価される場面を強く恐れるようになることがあります。

うつ病と比べると一見軽症に思われがちですが、実際には引きこもりの原因になることもあり、注意が必要です。強い対人不安だけでなく、回避によって生活範囲が狭まるなどの影響も確認します。

10-④ 性格の変化―攻撃性や反発、対人不信が強まる場合

ADHDでは、特性から、やろうと思ってもうまくいかず、叱責される経験が繰り返される場合があります。その結果、他者を信じられなくなり、対人不信や攻撃性が目立つようになることがあります。

こうした性格の変化にADHDの衝動性が重なると、対人トラブルなどのリスクが高まる場合があります。その場合は、不注意などのほかの症状よりも、まず影響の強い衝動性への対策を重視します。

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11.ADHDで受診を考えたい目安

受診を考えたい、3つの目安。同じつまずきを繰り返す、生活の継続が難しい、うつ状態が重なる。一人の工夫だけで、抱え込まないでください。図を拡大する

生活への支障が続いている場合は、大きなトラブルが起きるなど、影響が強まる前に対策を取ることが望まれます。特に次の3つがある場合は、自分の工夫だけで抱え込まず、受診を勧めます。

11-① 不適応を繰り返している―職場や学校で同じつまずきが続く

職場を変えても同じミスで困る、仕事や通学が続かない、対人トラブルを繰り返す場合は、背景を整理するために受診を考えたい状態です。「次の環境なら頑張れる」と移る前に、これまでの経過を振り返ります。

診察では、本人の特徴と、環境から求められていることの両方を確認します。ADHDかどうかを調べるだけでなく、同じつまずきを減らすために何が必要かを検討します。

11-② 生活の継続が難しくなっている―借金や支払いの滞りがある

借金が増えている、家賃や公共料金を払えない、必要な生活費まで使ってしまう場合は、早めの相談が必要です。家族が繰り返し穴埋めしており、周囲も限界に近づいている状態も含みます。

医療だけで解決できない問題もあるため、家計や債務に関する支援と並行して対応を考えます。医療による支えも大切ですが、実際には法的なサポートの方が重要になる場合もあります。

11-③ うつ状態を合併している―落ち込み、自責、意欲低下が続く

ADHDでは、うつ状態を合併することもあります。落ち込みや不安に加え、以前からあった不注意がさらに目立つこともあり、困難が重なるため早めの受診が必要です。

ADHDにうつ状態を合併している場合は、まずうつ状態の治療を優先します。 休養の確保をはじめ、抗うつ薬などによる治療を行うことがあります。安定後に、ADHDの特性への対策も合わせて検討します。

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12.ADHDの診断では何を確認するか

診断では、今とこれまでを合わせて確認。現在の症状と生活、子どもの頃の特徴、複数の場面での支障、検査や、ほかの原因。検査だけで決めず、複数の情報から考えます。図を拡大する

12-① 現在の症状―内容・頻度・持続期間を確認する

診断では、今どのような症状があり、どのくらいの頻度で、いつから続いているかを確認します。「忘れっぽい」という印象だけでなく、実際に何を忘れ、どのような影響が出ているかを伺います。

不注意に比べ、多動・衝動性は一見分かりにくい場合もあります。「行列で順番を待てない」「相手の話を遮ってしまう」など、具体的な行動を振り返りながら判断することがあります。

12-② 幼少期の特徴―12歳以前の学校や家庭での様子を振り返る

ADHDの診断では、12歳より前から一部の症状があったかを確認します。忘れ物、宿題の提出、授業中の過ごし方、家庭での身支度など、分かる範囲で振り返ります。

当時の通知表や家族からの情報が、手がかりになる場合があります。資料がないから相談できないわけではなく、記憶の確かさやほかの情報も含めて、慎重に評価します。

12-③ 複数の場面での支障―仕事・家庭・対人関係への影響を見る

診断では、一つの場面だけでなく、仕事や学校、家庭など複数の場面で症状がみられるかを確認します。ただし、どこでも同じ強さで困る必要はなく、環境や支え方によって現れ方は変わります。

例えば、仕事では細かい確認体制に支えられていても、自宅では支払いが滞っている場合があります。困っている場面と、支えがあって成り立っている場面の両方を整理します。

12-④ 心理検査―客観的な視点で状態を見る

ADHDの診断に用いる情報は、自覚症状などの主観的なものが多くを占めます。それ自体にも意味はありますが、状態が過大・過小に捉えられる場合もあり、客観的な視点からの確認が必要になることがあります。

その際に、WAISなどの心理検査を行うことがあります。心理検査だけでは診断できませんが、客観的な特性や長所・弱点を見極めることができ、ほかの情報と組み合わせることで診断に近づきます。

12-⑤ ほかの病気や体調の影響―ADHD以外の説明がないかを確認する

うつ病、不安、睡眠の問題、飲酒や薬の影響などでも、ADHDに似た症状が出ることがあります。必要に応じて身体の状態も確認し、ほかの原因だけで説明できないかを検討します。

複数の原因が重なっている場合は、一度の診察ですべてを決められないこともあります。治療後の変化や追加の情報を見ながら、診断を確かめていきます。

12-⑥ ADHDのグレーゾーンと診断

ADHDの診断は、必ずしも「白か黒か」ではありません。明らかに診断がつく場合や、その逆の場合もありますが、特に成人では、傾向があってもその多くが中間の「グレーゾーン」の状態です。

グレーゾーンの場合、福祉的なサポートを受けることが難しい場合もありますが、生活面で行える対策には共通点が多くあります。そのため、グレーゾーンという診断でも、今後に役立つヒントを多く得られる場合があります。

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13.ADHDの主な治療法

治療は、薬と生活面を組み合わせて。薬物療法、心理・生活面の対策、二次障害への対応。症状だけでなく、生活の変化も確認します。図を拡大する

13-① 薬物療法―症状を軽減し、生活の対策に取り組みやすくする

薬物療法は、不注意や多動・衝動性などの症状を軽減するために行います。すべての人に薬が必要なわけではなく、生活への支障、本人の希望、ほかの病気や副作用のリスクを踏まえて検討します。

診察では、薬を飲んだ実感だけでなく、「作業を終えやすくなった」「確認の抜けが減った」など、生活の変化を確認します。薬で得られた改善を、具体的な工夫につなげていきます。

13-② 心理・生活面の対策―理解、行動の工夫、環境調整を進める

ADHDの対策では、自分の特徴を理解し、記憶や気合いだけに頼らない仕組みを作ります。予定を一か所にまとめる、作業を小さく分ける、口頭の指示を文字でも確認するなどの方法です。

最近は、生活の工夫に関するさまざまな情報が得られるようになっています。ただし、方法との相性には個人差があり、合う方法でも定着には繰り返し取り組む必要があります。少しずつでも、自分に合う方法を探し、実践を重ねます。

13-③ 二次障害の治療―うつや不安など、今の不調にも対応する

うつや不安が重なっている場合は、ADHDへの対策だけでは十分でないことがあります。意欲が低下している、失敗への恐怖が強いといった状態では、工夫を試すこと自体が難しくなるためです。

多くの場合、まずは二次障害であるうつ病などの治療から取り組みます。病状が安定してから、その背景にあるADHDへの取り組みを並行し、今後に備えます。

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14.ADHDの治療薬―効果と副作用

薬は、効果と副作用の両方を確認。アトモキセチン、グアンファシン、メチルフェニデート徐放剤。生活の改善と体調を見ながら、診察で調整。図を拡大する

14-① アトモキセチン(ストラテラ)

アトモキセチンは、ノルアドレナリンの働きに関わり、不注意や多動・衝動性を軽減する薬です。依存性がなく比較的安全に使えますが、効果が出るまで数週間かかり、実感もしにくい点には注意が必要です。

副作用として、特に服用初期に吐き気、食欲低下、眠気などが出ることがあります。効果が出るまで待つ必要がありますが、効果の現れ方には個人差があるため、副作用も含めて確認し、継続するかを検討します。

14-② グアンファシン(インチュニブ)

グアンファシンは、α2A受容体に作用し、ADHDの症状を軽減する薬です。ADHDの各症状の中でも、臨床的には衝動性の改善に効果を期待することがあります。

副作用として眠気や倦怠感が出る場合があるため、影響を減らすよう夜に服用し、用量も少量から徐々に増やします。副作用には個人差が大きく、どうしても眠気などの影響が強い場合は、ほかの選択肢を検討します。

14-③ メチルフェニデート徐放剤(コンサータ)

メチルフェニデート徐放剤は、ドパミンやノルアドレナリンの働きに関わり、効果が持続するように作られた薬です。即効性がありますが、依存の問題があるため、特に成人では慎重な検討が必要です。

副作用としては、食欲低下、不眠、血圧や脈拍の変化などに幅広く注意が必要で、処方には登録管理制度があります。なお、当院では、患者カードを現在お持ちでない方への新規処方はできません。

14-④ 効果・副作用・生活上の変化を確認しながら調整する

薬の評価では、「集中できる感じがする」という実感と、実際の生活が改善しているかの両方を見ます。仕事の抜けが減ったか、家庭で過ごしやすくなったかに加え、食欲や睡眠、体調への影響も確認します。

統合失調症の薬などとは異なり、ADHDの薬は病状管理のために絶対に飲む必要があるものではありません。副作用などの面で合わない場合や、効果を実感しにくい場合は、薬を使わず、ほかの対策を重視することもあります。

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15.ADHDへの心理・生活面の対策

記憶や気合いだけに頼らない工夫。つまずく場面を知る、予定・手順を見える形に、集中しやすい環境、周囲と支え方を共有。一つの困りごとから、続けられる方法を試す。図を拡大する

15-① 障害の理解―自分がどの場面で、何につまずくかを知る

対策の出発点は、苦手を漠然と捉えず、起きていることを具体的に分けることです。同じ遅刻でも、起床、準備、時間の見積もり、出発前の寄り道では、必要な対策が異なります。

診察では、うまくできた場面も振り返ります。「口頭では忘れるが、文字ならできる」「一つずつなら終えられる」といった違いが、対策を考える手がかりになります。

15-② 生活の工夫―予定、持ち物、手順を見える形にする

覚えておく負担を減らすため、予定や手順を外に出して確認できる形にします。予定は一つのカレンダーへその場で入れる、鍵の置き場所を決める、出発時刻だけでなく準備開始にも通知を設定する、といった方法です。

工夫を増やしすぎると、それを管理する負担が生じます。まず一つの問題に一つの方法を試し、すぐにうまくいかない場合も、繰り返し練習しながら少しずつ身につけていきます。

15-③ 環境調整―集中しやすい場所や、分かりやすい指示を整える

環境調整では、本人が力を発揮しにくい条件を減らします。静かな場所で作業する、指示を文字でも残す、複数の仕事に優先順位をつける、途中で確認する時間を設けるなどの方法があります。

細かいミスが大きく影響する仕事など、本人の特性と仕事の相性がよくない場合もあります。その場合は、自分の長所と短所を見極め、それに合う仕事を探すこともあります。

15-④ 家族や周囲との協力―叱責だけに頼らず、支え方を共有する

ADHDを持つ方と関わる場合、「しっかりしてほしい」という希望を、具体的な行動に置き換えます。例えば、「頼まれたことはその場で記録する」「支払いは決まった日に一緒に確認する」といった形です。

家族がすべてを管理し続けることを、当然の前提にはしません。本人が担うこと、手助けが必要なこと、周囲には負担が大きすぎることを分け、続けられる協力の範囲を調整します。

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16.二次障害がある場合―まず何から治療するか

強いうつや不安があるときは。まず、今の不調を治療、眠る・食べる・休む、安定に合わせてADHD対策。取り組める範囲から、生活の立て直しへ。図を拡大する

16-① 二次障害が重なると、ADHDへの対策にも取り組みにくくなる

うつや不安が強いと、予定を立てる、メモを見返す、人に相談するといった対策も難しくなります。できない理由が、もともとの不注意だけではなくなっているためです。

二次障害を合併すると、症状が重なるだけでなく、取り組むための余力もなくなります。その状態でADHDの改善に取り組むことが負担となり、二次障害を悪化させるリスクがあります。

16-② まず二次障害を治療し、こころとからだの安定を図る

そのため、二次障害の負担が強い場合は、まずその治療を優先します。強いうつ状態があるときは、生活習慣を細かく直すより、休養やうつへの治療を通して、眠る、食べる、日常生活を保つことから整えます。

ADHDが背景にあると、考えを止められず休養を十分に取れないなど、治療に影響する場合もあります。まず二次障害の治療を優先しながら、ADHDに伴う影響にも注意を払います。

16-③ 安定してきたら、ADHDの治療と生活面の対策を並行する

うつや不安が軽減してきたら、残っているADHDの特徴への対策を進めます。症状が完全になくなるまで待つとは限らず、取り組める範囲で、薬の検討や具体的な生活の工夫を並行します。

診察では、気分が回復したことだけで治療を終わらせず、再び同じ失敗や負担が積み重ならないかも考えます。二次障害の改善と、その後の生活の立て直しをつなげていきます。

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17.ADHDを持ちつつ、どう生きるか

改善と受け入れを、並行して考える。生活を守る改善、自分に合う環境、その人の長所を生かす。苦手をすべてなくすことだけが、目標ではありません。図を拡大する

17-① 改善することと、受け入れることを並行する

ADHDでは、治療や日々の取り組みを通じて、多くの症状の改善が見込めます。ただし、特性そのものがなくなるわけではなく、いくら努力しても残り、影響を及ぼす特性や症状もしばしばあります。

そのため、取り組んだうえで残る部分は、受け入れることも大切です。改善と受け入れを両立させながら、自分に合う環境を探し、日々を過ごしていきます。

17-② 弱点の改善は、生活や仕事を続けるための「最低限」を目標にする

弱点の改善では、すべてを得意にすることを目指しません。まずは、生活や仕事を続けられなくなるほどの支障を防ぐ、最低限の水準を目標にします。

例えば、片付けを完璧にするより必要な書類をなくさないこと、予定を細かく管理するより出勤や受診に間に合うことを優先します。限られた力をどこに使うかを決め、長所まで失うほど苦手の補強に追われないようにします。

17-③ 苦手な条件に耐え続けるだけでなく、自分に合う環境を選ぶ

同じ能力でも、求められる役割や働き方によって、続けやすさは変わります。細かな同時進行が多い仕事、頻繁に中断される環境など、特に負担が大きくなる条件を整理します。

まずは、担当業務の変更、指示の受け方、確認体制、勤務時間など、今の場所で変えられる条件から考えます。それだけでは難しい場合は、転職など、より大きな環境調整も検討します。

17-④ その人の長所や得意分野を、実際の役割につなげる

長所は、「ADHDだから創造的」などと一括りにせず、その人の経験から見つけます。興味を持って学べる分野、周囲から評価されてきた仕事、比較的無理なく続けられる活動を振り返ります。

長所は、環境とうまく適合してこそ力を発揮します。その人の長所が強みとして生きる環境を探し、弱点を補いながら長所を生かして、適応と貢献につなげます。

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18.ADHDの初診で医師が見ること

初診では、具体的な場面から。今いちばん困ること、失敗と、うまくできる場面、気分・睡眠・体調、子どもの頃の情報。資料がそろわなくても、分かる範囲から相談。図を拡大する

18-① 今いちばん困っていることと、相談しようと思ったきっかけ

初診では、「ADHDかどうか」という疑問とともに、今の生活で何がいちばん難しいかを伺います。仕事のミス、遅刻、家族との衝突、買い物の問題など、具体的な場面をそのまま伝えてください。

長く同じ特徴があっても、受診を考えた時期には何らかの変化がある場合があります。異動、昇進、一人暮らし、育児などの負担と、最近の症状を照らし合わせて整理します。

18-② 同じ失敗を繰り返す場面と、うまくできている場面

診察では、失敗だけでなく、うまくできていることも伺います。同じ作業でも、一人で進めると抜けるのか、説明が文字ならできるのか、締め切りが短ければ取り組めるのかを確認します。

この違いは、診断だけでなく対策を考える材料になります。初診前にすべてを整理する必要はありませんが、最近困った出来事を二つほどメモしておくと、状況を伝えやすくなります。

18-③ 気分・睡眠・飲酒・服薬状況と、生活上の安全性

落ち込み、不安、気分の高まり、睡眠、飲酒、現在使っている薬なども確認します。ADHDに似た症状の原因や、治療薬を安全に使えるかを判断するための情報です。

借金、仕事の継続、自分や周囲を傷つけるおそれなど、急いで対応すべき問題も伺います。話しにくい内容も、責めるためではなく、治療と支援の優先順位を決めるために確認します。

18-④ 幼少期の情報や資料―分かる範囲から振り返る

子どものころの学校や家庭での様子、過去の診断や治療歴を伺います。通知表、以前の検査結果、お薬手帳などがある場合は、確認に役立つことがあります。

資料をすべてそろえてからでなければ受診できない、ということではありません。家族からの情報などが集まりにくい場合は、まず分かる範囲のことから進めます。

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19.桜ヶ丘こころ診療所でのADHD診療の考え方

困りごとと、続けたい生活から考える。特徴と不調を分ける、薬と生活面を組み合わせる、無理なく続ける方法。苦手を責めず、本人に合う治療を考えます。図を拡大する

19-① 診断名だけでなく、繰り返している困りごとから考えます

当院では、ADHDに当てはまるかだけでなく、今の生活を難しくしていることから診療を始めます。症状の名前より、仕事や家庭で何が起き、どのような支障が続いているかを伺います。

一度の診察で無理に結論を出さず、分かっていることと、まだ判断しきれないことを共有します。そのうえで、今必要な治療や生活上の対応を考えます。

19-② ADHDの特徴と、二次障害・ほかの疾患を分けて整理します

子どものころから続く特徴と、最近になって加わった変化を分けて確認します。うつや不安、睡眠の問題などが重なっている場合は、ADHDだけですべてを説明しないようにします。

二次障害の負担が強い時期は、まずその治療を優先します。状態が落ち着いてきたら、もともとの困りごとへの対策を並行し、生活の立て直しにつなげます。

19-③ 薬物療法と生活・環境面の対策を組み合わせます

薬を使う場合は、何の改善を目指すのかを説明し、効果と副作用を確認します。薬だけに任せず、予定の管理、仕事の進め方、周囲との協力など、生活で使える対策も一緒に考えます。

薬を使いたい気持ちだけでなく、飲むことへの迷いや続けにくさも、必要に応じて診察で扱います。処方できる薬の範囲を踏まえ、本人の生活や希望に合う治療を検討します。

19-④ 苦手を責めるのではなく、無理なく生活を続ける方法を考えます

当院では、苦手をすべてなくすことだけを治療の目標にはしません。生活を守るために必要な改善を進めながら、自分に合う環境や、得意なことを生かせる役割を考えます。

「もっと頑張ればできるはず」と一人で抱え続けるのではなく、何に力を使い、どこに支援を取り入れるかを整理します。症状の軽減と、その人が続けたい生活の両方を、診察で考えていきます。

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桜ヶ丘こころ診療所は、聖蹟桜ヶ丘駅近くの心療内科・精神科です。不注意などの特性が目立つ場合だけでなく、二次障害としてのうつ状態や対人不安などが続く場合も診療します。生活への影響を伺い、薬物療法や生活面のさまざまな工夫を組み合わせながら、治療方針を考えます。

この記事を書いた医師

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春日雄一郎

医療法人社団Heart Station 理事長/精神科医

精神科の臨床に携わり、診療所の運営を行っています。また、YouTube「こころ診療所チャンネル」での発信活動にも取り組んでいます。精神科の臨床と情報発信に携わる立場から、こころの病気について解説しています。

本記事は主筆医師が内容を作成し、医学的内容を確認しています。

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